道の匂いを吸い込みながら

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 ウォーキングと意識したことはないけれど、歩くことは昔から嫌いじゃない。たぶん、運動することは苦手で、だからダイエットも続かなくて、そんな自分でも無理なく楽しめるものが「歩くこと」なんだと思う。
 運動は嫌いだし、苦手だけど、歩くことならどこまで歩いていっても疲れなかった。大学生の頃はわざと二駅くらい歩いて大学まで毎日通学していた。
 理由は歩く「道」が好きだったから。少し大きめの公園を通り抜けるのだけど、季節によって風景も空気の匂いも様変わりする。春はクローバーが芝生に敷き詰められ、シロツメクサが咲き乱れている。私がもう少し幼かったらきっと四葉のクローバー探しを始めてしまっていただろう。夏は暑い日差しの中でセミが鳴きわめき、こんもりと茂った木陰の下を歩きながら、むわっとする植物の生きている匂いが鼻を覆う。秋は積もった枯葉の湿った甘い枯葉の匂いの間を、金木犀の香りが通り抜けていく。冬は寒さで鼻を痛くしながらポケットに手をつっこんで、キンキンする氷の空気を頬にあびる。
 公園を過ぎて、しばらく行くと、パン屋さん兼お菓子屋さんのような一軒家のお店もある。そこから毎朝漂う、卵と小麦粉と、お砂糖とバターの甘くこんがりと焼ける匂いも、大好きだった。
 こうやって書くと、改めて、わたしは歩きながら、季節と風景がかもしだす、匂いがすきなんだな、と思う。
 ウォーキングというと、少し年のいったおばさんやおじさんがトレーニングウェアを着て、首にタオルを巻いて仲良しそうにスポーツシューズで歩いている姿なんかをイメージしてしまうかもしれない。けれど、わたしはそんな形から入らなくても、少しでも「楽しいな」と感じながら歩くことは全部ウォーキングだと思う。
 それに、車や電車からでは決して見つからない小さな発見(コンクリートの隙間からスミレが顔を出していたり、見たこともない、まあるい大きなどんぐりが落ちていたり……)があるのも、外を歩く楽しさだ。季節の変化が空気の匂いと目に映る風景でわかるのも、なんとも素敵。
 お気に入りの靴、ただし、疲れすぎない靴を履いて、おしゃれして、自分だけの発見をしに、外を歩いてみる。
 それだけで、ふくふくとした幸福感が体の内からあふれてくる。

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